【気密性の重要性!】断熱と同じくらい重要な気密のメリット・デメリットを現役設計士が解説
快適な住環境を実現し、光熱費を節約するためには、断熱性と並行して住宅の隙間を減らす気密も同じくらい重要です。
本記事では現役設計士が断熱と気密の重要性について解説し、そのメリット、デメリット、気密性能を高める方法なども詳しく紹介していきます。高性能住宅の購入を検討されている方はぜひ参考にしてください。
目次
- 気密とは?
- 断熱と気密の関係性
- 気密性の高い家のメリットは?
- 気密性の高い家のデメリットと対策は?
- 気密性を高める方法と実際の金額は?
- まとめ
気密とは?
住宅の気密とは、隙間を減らして外気の出入りを防ぐことです。隙間が多い住宅は冬は冷たい外気が入り込み、夏は涼しい空気が逃げてしまうため、冷暖房のエネルギー消費が多くなってしまい光熱費が高くなります。
気密性を高めることで、光熱費を抑えやすくなるなどのほかに様々なメリットがあり、快適な住環境を実現し光熱費を節約するために非常に大事なことなのです
そして、気密性を表す数値として、C値(シー)があります。
C値とは?
気密性能はC値で表され、「相当隙間面積」とも呼ばれます。簡単に言うと、住宅全体にどれくらいの隙間があるかを示すもので、C値が小さいほど隙間が少なく気密性が高いことを意味します。
ちなみに、断熱性能等級は地域ごとに数値で細かく設定されていますが、実は気密性のC値は基準が定められていないのです。
そのためか、住宅会社が断熱性能等級の高さをアピールすることがあっても、気密性についてアピールする会社はそれほど多くないというふうに現役で住宅業界に身を置く設計士として感じてしまいます。
C値の目安
上でも書いたようにC値の基準は定められておらず、住宅メーカーごとの考え方や基準によります。木造住宅のC値は、概ね1.0㎠/㎡以下で高気密住宅と言われておりますが、現役設計士で現場の施工管理を経験をし、さまざまな気密部材や施工方法も含めて積算、費用対効果を検討した私の意見としては、建築予算が許されるのならC値0.5㎠/㎡以下を高気密住宅の目安としたいところです。
気密部材やそれを使った施工は費用が掛かかるが効果が高い、というものもあれば、建築中の各工程でどこに隙間が生じやすいかを押さえておけば低コストで効果を得やすい箇所とそのやり方もあるので、あとに書きます「5.気密性を高める方法は?」もぜひご覧ください。
C値の具体例
C値1.0㎠/㎡の場合、延面積100㎡(約30.2坪)の住宅であれば、住宅全体で100㎠(約0.7枚のハガキ)分の隙間があることになります。
C値0.5㎠/㎡の場合、延面積100㎡(約30.2坪)の住宅であれば、住宅全体で50㎠(約0.35枚のハガキ)分の隙間があることになります。
C値で示す隙間には、換気のための給排気口などのそもそも開いていることが前提の孔は除かれます。つまりこの隙間は、窓周りや壁の隙間、コンセントやスイッチの周り、そのほかの設備配管や電気配線によって開けられた通常塞がれるべき孔や隙間のことで、工事が進むにつれて目に見えなくなっていき、完成後はほとんどの箇所が見えなくなります。
完全に隙間をなくすことは極めて難しいためC値を0㎠/㎡にすることはできないと思われますが、工事の工程上で発生する孔や隙間を把握しておき、それを適切に塞ぐことで気密性を高めていくことができます。
C値の測定の仕方と行うタイミング
https://www.njkk.co.jp/blog/?itemid=50&dispmid=764
C値測定は、専門の測定機器を用いて行われ、一般的にブロアードアテストと呼ばれます。住宅の全ての窓やドアを閉め、換気扇などの開口部をふさぎ、測定機器をドアや窓に取り付けます。
測定機器を使って、住宅内から空気を外部へ排出し、このとき住宅内の気圧が低下し、隙間から入り込んできた空気の量を測定し、C値を算出します。
測定のタイミングは工事完了後に行う場合もありますが、もしこの測定で目標となる数値が出なかった場合、工事がすべて終わっているため、隙間をふさぐことが非常に難しい箇所が多くあります。
そのため、断熱材と気密部材が施工されたタイミングで測定するといいでしょう。もしこの測定で目標となる数値が出なかった場合でも、隙間を見つけてそこをふさぐことが比較的簡単だからです。基本的には完成後に見えなくなる断熱材や気密部材の施工前に測定することは、お勧めできません。
気密と断熱の関係性は?
気密と断熱は、密接な関係にあります。断熱性能が高い住宅であっても、気密性能が低ければ、せっかくの断熱性能が活かせません。例えば、冬にダウンジャケットを着ていても、そのチャックを閉めなければ、閉めた時と比べると暖かさを感じにくいかと思います。
逆に、気密性能が高い住宅であっても、断熱性能が低ければ室温が安定せず、光熱費が高くなります。
高気密高断熱住宅とは、断熱性能と気密性能を両立させた住宅です。高気密高断熱住宅は、冬は暖かく、夏は涼しく、快適な住環境を実現できるだけでなく、光熱費を大幅に節約することができます。
断熱性を高めることは重要ですが、このように住宅の隙間を減らす気密も同じくらい重要なのです。しかし、住宅会社が断熱性能等級の高さをアピールすることがあっても、気密性についてアピールすることはそれほど多くないように感じてしまいます。気密性についても、施工とC値の実績をきちんと公開している住宅会社を探して、依頼を検討してみるといいでしょう。
気密性を高めるメリットは?
気密性を高めることで以下のようなメリットがあります。
光熱費の節約
隙間からの漏気が減って、隙間風の寒さや暑さを感じにくくなるだけでなく、冷暖房の効きがよくなって光熱費を大幅に節約することができます。
結露やカビの抑制
室内や壁内への湿気の流入を防ぐことができるので、結露やカビの発生を抑制することができます。結露というと、窓に水滴がついていることを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。気密性を高めるとそれも抑制できるのですが(断熱性の高い窓を採用することも重要です)、もっと恐ろしいことは、壁の内部という見えないところで結露が発生するということです。気密性が低いと湿気が壁の中に入り、温度環境によって結露が発生してしまう恐れがあります。
例えば、冬の暖房された室温20℃の空気に相対湿度50%の湿気が含まれていたとして、それが壁の隙間から壁の中にその湿気が入り、約9.6℃以下に冷やされてしまうと、湿気(水蒸気)は水滴となり結露してしまいます。
この例は壁の断熱性を高めることも重要ですが、並行して気密性を高めることで結露による建材や建物の劣化を抑制し、住宅の寿命を延ばす効果が期待できます。
健康へのメリット
隙間風に乗ってくる花粉などの侵入を抑制するだけでなく、結露やカビを抑制できることによるアレルギー症状の緩和が期待できます。
また、高断熱と高気密の組み合わせによる相乗効果が室温の安定化に繋がり、ヒートショックなどの健康被害リスクを低減することができます。
音環境の改善
外部からの音は住宅の隙間からも室内へ入ってきますが、気密性能が高いことで外部からの騒音を遮断し、静かな室内で団らんの時間をゆっくり過ごしたり、睡眠を妨げられることを減らしたりも期待できます。
気密性を高める際のデメリットと対策は?
上に書いたメリットとは反対に、気密性を高めることで以下のようなデメリットもあります。
初期費用が高くなる
気密材施工に材料や技術が必要となるため、建築費用が高くなる傾向にあります。
しかし、気密性を高める工事は建築中にしかできなかったり、完成後だと難しくなったりするため、予算が許されるのであれば積極的に考えてほしいことではあります。
数万円~数十万円かかる工事もあれば、低コストで効果を得やすい箇所とそのやり方もあるので、あとに書きます「5.気密性を高める方法は?」もぜひご覧いただきたいと思います。
換気計画が重要
https://www.mitsubishielectric.co.jp/ldg/ja/air/products/ventilationfan/about/detail_02_p.html
気密性が高い住宅は隙間からの漏気が少ない一方で、反対に室内の空気が隙間から出ていかずにこもりやすくもなるため、空気の通り道を含めた換気計画が重要となります。
これらのデメリット対策には、断熱だけでなく、気密施工の要点をきちんと理解していてその実績がある、換気計画をきちんと立ているといった住宅会社を選び、適切な施工を行うことが重要です。住宅検討から住宅会社の決定までの期間にゆとりを持つことが必要になります。
気密性を高める方法と実際の金額は?
気密性を高めるためには、建築の工程上どこに隙間が発生するかをきちんと把握し、それをどうやって塞ぐかを押さえておく必要があります。
工程上で注意したいいくつかの箇所とかかる概算の費用(木造総2階建て、延面積100㎡(約30.2坪)で検討)を以下に紹介したいと思います。
※費用は各住宅会社により、使う材料や施工の仕方によって金額は様々です。あくまで概算として捉えてください。
配管や配線の貫通部
費用:約数千円~3万円程度
基礎や床下からの配管孔や配線の周りは隙間ができやすい箇所なので、しっかりと断熱材やシーリングで隙間埋めの処理を行いましょう。
ただし、配管や配線の貫通部のすべてを隙間埋めするというのは費用がかかるだけで、多数の部分にほぼ効果の見込めないということになってしまいます。
隙間埋めをするのは、下の図のような断熱・気密を施工する基礎や床、壁、天井、屋根を貫通する部分が基本になります。
https://www.jfe-rockfiber.co.jp/construction/method.html
基礎と土台間の気密パッキン
費用:数千円~2万円程度
気密パッキンとはそもそも気密性を確保するための部材ですが、1本あたりが決まった長さになっていて、施工する長さが長い場合は、複数の気密パッキンを継いで施工していきます。
この継ぎ目や、出隅と入隅の部分に隙間ができやすいため、コーキングで塞ぐことが有効です。
外周耐力面材(施工する場合)の周りと窓周り
費用:8~12万円程度
費用:5~8万円程度
費用:5~8万円程度
このように耐力壁として躯体外周部に耐力面材を施工する際に、木造躯体と耐力面材の間に気密用のパッキン材を施工したり(画像1枚目)、木造躯体に耐力面材を施工した後に面材同士の継ぎ目に気密テープやブチルテープを貼ったり(画像2枚目)することも有効です。
この方法を2通り試したことがあり、どちらかというと前者のほうがより効果を感じられましたが、後者のほうも気密測定時に効果を感じましたので、ご予算に応じて選択がいいでしょう。
また、窓を木造躯体に取り付ける際に、その取り付け面にどうしても隙間が生じやすくなります。それを解消するために窓が躯体に取り付く範囲に気密用のパッキン材を施工すること(画像3枚目)も有効です。
コンセントの気密カバー
費用:1万数千円~3万円程度
断熱・気密材を施工する壁にコンセントやスイッチのボックスを施工する際に、このような気密カバーを使用することも有効です。費用も約30坪の住宅1棟あたりでこのくらいでできるため、検討しやすいかと思います。
ここで注意したいのは、この気密カバーをただ使用するだけでなく、配線が気密カバーを貫通した部分はきちんとシーリング等で隙間を埋めることも重要です。
気密フィルムの施工
費用:25~35万円程度
天井や壁全体に防湿気密フィルム(シート)を貼ることでより高い気密性を確保できます。この際に、フィルムの継ぎ目や端部、コンセントカバーや配管孔の周りに気密テープを貼ることを忘れてはいけません。
このフィルムの工事は施工面積が大きいため、おそらく気密工事において一番費用が大きくなってしまうかと思います。しかし、この施工はとても重要で高い効果も期待できるため、積極的な採用を検討してほしいと思います。
引き違い窓とすべり出し窓
https://www.ykkap.co.jp/consumer/search/products/window
引き違い窓とすべり出し窓にも気密性の違いがあり、一般的な引き違い窓と比較すると、すべり出し窓のほうが閉めたときに窓建具とサッシ枠にピッタリとくっつき、気密性が高まります。
またすべり出し窓の場合、窓の配置と開く方向をきちんと検討することで、外の風をキャッチしやすくなり、窓を開けたときの風通しがぐんとよくなります。
まとめ
気密と断熱は、快適な住環境を実現し、光熱費を節約するために非常に重要です。高気密高断熱住宅は、これらのメリットがある一方で、初期費用が高くなるなどのデメリットや計画、施工の難しさもあります。高気密高断熱住宅を検討する際には、メリットとデメリットを理解した上で、信頼できる住宅会社を選ぶことが重要です。