【夏は涼しく冬は暖かい!】現役設計士が語る日差しを味方につける賢い設計術
省エネで快適な住まいを実現するためには、断熱性や気密性が重要になります。そして並行して考えたいのが太陽からの日差し、エネルギーです。そこで今回は、「住宅の夏と冬の日差し」というキーワードで、現役設計士が日が当たることでのメリットとデメリット、そして日差しを味方につける賢い設計術をご紹介します。
目次
- 住宅における日差しの重要性
- 夏の日差しを遮る方法は?
- 冬の日差しを取り込む方法は?
- 新築だけではない、建売購入や既存住宅でもできること!
- まとめ
1.住宅における日差しの重要性
はじめに、「日当たりが良い家がいい」というのは多くの人が抱くイメージですよね。しかし、日当たりが良いことにはメリットだけでなくデメリットも存在します。
また、夏は日射しが強くて室温が下がりにくい、冬は日射しが弱くて室温が上がりにくい、これは季節ごとに誰もが感じることでしょう。だからこそエアコンなどの冷暖房機器で温度調整をして快適に過ごそうとします。
日当たりが良いことでのメリットとデメリットをきちんと理解し、日差しをうまくコントロールすることで、夏は涼しく冬は暖かくできたら、快適に過ごせるだけでなく省エネにもつながっていくのです。
日当たりが良いことのメリット
室内が明るくなり、心身に良い影響を与える
十分な太陽の光は心身に良い影響を与え、生活の質を向上させます。太陽の光を浴びることで、セロトニンという神経伝達物質が分泌され、心の安定や睡眠の質の向上に繋がり、またカルシウムの吸収を促進して骨を丈夫にする効果も期待できます。
冬は暖かく、光熱費の節約に繋がる
太陽の光は自然の暖房効果をもたらし、特に冬は日差しを取り込むことで室温が上がり、暖房費の節約にも繋がります。
洗濯物が乾きやすい
日当たりの良い場所では洗濯物が乾きやすく、家事の負担を軽減できます。
日当たりが良いことのデメリット
夏は暑くなりやすく、冷房費がかかる
夏の強い日差しが入ることで室温が上がりやすくなり、冷房費がかかってしまうことがあります。
家具や床材が日焼けする可能性がある
長時間直射日光が当たることで家具や床材が日焼けし、変色してしまうことがあります。
2. 夏の日差しを遮る方法は?
日差しを遮るために有効な方法は、以下のようなことになります。
窓の位置と大きさを工夫する。特に東、西、北側の窓は不必要に大きくしない。
https://www.biz-lixil.com/column/business_library/article04_006
夏の太陽の動きは上の図のようになるため、東と西側の壁や窓には低い角度から日が当たります。
つまり、庇の効果はなかなか期待できないため、窓が大きいほど夏の暑い日差しが多く入り込み、室内の温度が上がりやすくなってしまうのです。このことから、外付けのブラインドなどが日差しを遮るのに有効ですが、そもそもは東と西側の窓は不必要に大きくしないことが大事になります。
北側は日が当たりが少ないものの、ほぼ日当たりのない冬と比べると無視はできません。また冬の場合になりますが、ほぼ日当たりが見込めないことから、窓が大きいほど熱が逃げていくことになるため、北側の窓も不必要に大きくしないことが大事と言えます。
軒や庇を活用する。南側が照らされる時間帯は、太陽高度が高めのため特に有効。
先程の夏の太陽の動きの図のとおり、南側が照らされる時間帯は太陽高度が高いことが分かります。
つまり、屋根の軒を出したり庇を設けたりすることで日差しを有効に遮ることができます。
また、屋根の軒を出したり庇を設けたりすると窓に直接雨が当たりにくくなり、窓が汚れにくくなる効果も期待できます。
ハニカムスクリーンやカーテン、ブラインドを使用する。
窓に設置するカーテンなどはプライバシー保護だけでなく、夏の日差し対策や冬の寒さ対策など重要な役割があります。
一般的に多く用いられているカーテン以外にも、ハニカムスクリーン(ハチの巣のような六角形の構造をしたスクリーンで、この構造が大きな特徴であり、日よけや断熱効果を補助します)や外付けのブラインドなどが挙げられます。
特に外付けブラインドなどの室外に設置する日よけ部材は、窓より外側で大幅に日差しを遮ることができるため、大きな日よけ効果があります。
https://www.asahi-kasei.co.jp/asu/learning/article012/index.html
室内に設置するカーテンなども日よけ効果がありますが、これらは窓より内側にあり、日差しは一度室内に入ってきてしまっているため、室外に設置する日よけの方が効果が高いのです。
ただし、室外に設置する日よけ部材は、窓が外側に開くタイプの場合は取付けが不向きだったり、金額が高い傾向にあったりするので、ケースにより室内に設置するハニカムスクリーンもおすすめします。
そして、実は夏の日射量は南側よりも東西側の方が多くなり、かつ太陽の高度が低いので、南側だけでなく東西側からも日差しを遮る工夫が重要になります。
高さのある樹木を植えると、壁に木陰ができる。落葉樹だと冬の日差しも取り入れやすくなるため、特に◎
https://www.asahi-kasei.co.jp/asu/learning/article012/index.html
夏の間、落葉樹は茂った葉を広げ、建物の窓や庭に直接太陽光が当たるのを遮ります。これにより、室温の上昇を抑え、冷房負荷を軽減することができます。
落葉樹は秋になると葉を落とす樹木です。この特徴により冬には葉が邪魔することなく、低い角度から差し込む太陽光を室内に取り込むことができ、暖房費の節約にもつながります。
3. 冬の日差しを取り込む方法は?
日差しを取り込むために有効な方法は、以下のようなことになります。
敷地の建物の配置を決める際に、隣地や周辺の状況を踏まえて、できる限り南側が広く空くように計画する。
敷地の南側をできる限り広く空けることは、日当たりをよくする上で最も重要になると言っても過言ではありません。
南側を空けることができると家自体にきちんと日が当たるようになり、家自体の日当たりが確保できるとこれから挙げることが活きてくるのです。
また、敷地の形状や車の駐車スペースにもよりますが、できる限り南側を空けるために図のように東西に長めの建物形状にすることも有効になります。東西に長い建物の方が、南北に長い建物よりも日差しが当たる面が大きくなるからです。
南側にLDKや寝室などの主要な部屋を計画する。
次は主要な部屋(以下、居室)の配置です。南側に居室を配置すると、太陽光を入れての自然暖房効果が得られやすくなるため省エネに繋がります。
場合によっては駐車場の計画や玄関へのアプローチよりも優先して考えるのことも必要になります。
例えば、先程の配置図のような場合だと、玄関は南側に設けたほうが道路からや車からの動線が短く済みますが、その分、南側に計画できるLDKの大きさが小さくなってしまうのです。
そのため、この場合は外の動線が少し長くなるものの、玄関を北側に設けてLDKを最大限南側に広げることを優先する設計としました。
もちろん物事には限度があるので、生活のしやすさや建物の大きさ、そのほかお客様のご要望など様々なバランスによりますが、場合によってはこのような計画・提案も大事になってくるでしょう。
南側に大きな窓を設ける。
このように南側に大きな窓を設けてあげると、居室に暖かな日が差してきます。
例えば東京都において、横幅1.6m×高さ2.0mの一般的な掃出し窓(面積:3.2㎡、日射熱取得率:0.47)から、きちんと冬の日差し(351Wh/㎡)が入った場合、
3.2㎡ × 351Wh/㎡ × 0.47=527Wh
となり、1時間当たり527W(電気ストーブ500W分以上)の熱を無料で自然から得ることができます。
地域によって日射量のばらつきはありますが、先程の窓サイズからきちんと日差しが入ると、1時間当たりで約300W~690Wの熱を得られることになり、大きな省エネ効果を期待できます。南側の窓の窓サイズや数が増えれば、得られる熱は更に多くなります。
ここで注意したいことが冬の昼間に南側窓のカーテンやブラインドを閉めてしまうと、せっかくの暖かな日差しが入ってこなくなってしまうということです。
特に不在のときはカーテンを閉める方が多いかと思いますが、自然の暖房を得るためにも開けたままにしていただきたいです。
プライバシーが気になる方は、目隠しのフェンスを設けたり植栽を植えたりといった外構の工夫で考えてみるといいかもしれません。
(敷地の南側を空けることができれば、自ずと人の目線から家の中も遠ざかるというメリットもあります)
不在のときに防犯用に窓のシャッターを閉める場合などは防犯優先になるかと思いますが、在宅のときはできるだけシャッターを開けておくと、省エネに繋がることを覚えていていただきたいと思います。
一方で、大きな窓は夏の暑い日差しもたくさん入れてしまうことにもなるため、屋根の軒や庇、日よけ部材などでしっかりと日を遮ることも重要です。
夏の日差しを遮るために軒や庇を設けた場合でも冬は太陽高度が夏よりも低いため、日差しを遮ることなく、取り込むことができます。
4.新築だけではない、既存住宅や建売購入でもできること!
ここまで新築設計を基本としたお話をしてきましたが、いまお住まいの住宅や、購入を検討している建売住宅にもできることがありますので、ご紹介したいと思います。
後施工ができる外付けシェードや庇を設置する
https://www.ykkap.co.jp/consumer/products/exterior/outershade
これらの外付けシェードや「2. 夏の日差しを遮る方法は?」でご紹介しました庇は、室内に入る前に太陽熱を遮ってくれるため、室内温度の上昇を抑え、冷房負荷を軽減してくれます。また、紫外線もカットしてくれるため、日焼けによる建材や家具の劣化を防いでくれたり、シェードは外からの視線を遮ったりもしてくれます。
このシェードや庇には家が完成した後も施工ができる商品があるため、新築だけでなく、お住まいの住宅や購入を検討している建売住宅にも使用することができます。
内窓(インナーサッシ)を設置する
内窓とは、既存の窓の内側に後から取り付けられる窓のことです。二重窓とも呼ばれ、外窓と内窓の間に空気層ができることで、夏の日射を遮る効果や断熱効果を高めることができます。
そのほかにも防音効果があったり、窓の結露も抑えることもできます。
この内窓設置工事については2024年現在、国からの補助金を受けられる場合があるため、検討してみるといいでしょう。
(予算状況や工事時期、その他条件により交付の可否がありますのでご注意ください)
先進的間取リノベ2024事業 https://window-renovation2024.env.go.jp
このほかにも、上の「2. 夏の日差しを遮る方法は?」でご紹介した室内設置のハニカムスクリーンや、庭に植樹するというのも有効です。
お住まいの住宅や建売住宅は、日差しを取り入れるために南側に居室を配置して大きな窓を設ける、という工夫がされている一方で、相反する夏の日差しを遮るということがあまり考慮されていないケースもあるかと思います。(特に建売住宅に多いように感じます)
そのようなケースでも工夫することで、日差しと上手な付き合い方ができるのです。
5.まとめ
日差しをうまくコントロールすることで、省エネで快適な住環境を実現することができます。
逆に日差しをうまくコントロールしないと、夏は日差しを遮らないと窓からたくさんの光と熱が入ってきて、電気ヒーターのような暖房を点けながら冷房をするというなんとももったいない状態になってしまうのです。
また、冬の日差しは無料で手に入る暖かいエネルギーになりますので、活用できればできるほど省エネ効果を期待でき、昼間に取り入れた熱は室内に蓄えられるので、日が落ちてからも省エネ効果が期待できます。
今回紹介した設計テクニックを参考に、夏は涼しく、冬は暖かく、省エネな住まいを設計してみてはいかがでしょうか。